どこをみているの
2025/02/06 [PR]
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2013/09/01 壊れる時はあっけなく
「もういい加減にしてよ!」
塚ちゃんが投げたガラスのコップは見事に床に砕けた。私は、彼に叩かれた衝撃で未だ、床にへたり込んで動けないままでいる。頭もすごく冷静で、言葉をいくらか選んでもいるのに、それらはすべて私の涙に変わり、嗚咽となった。自分の涙が、床にポツポツと水滴を残すのを見てまた、涙が出た。
「なんでそういうことばっかり、して、そんなに僕が女じゃないことを、京介に好かれないってこと、見せ付けたいわけ?」
塚ちゃんは泣かない。怒って、悲しくて、憎くても、女みたいにすぐに涙は出ない。涙には頼らない。
「僕にはおっぱいもないし、ちんこを突っ込む穴もないよ。だけど、人を好きになってもいいでしょう。迷惑なんてかけてないじゃない!」
「あぶないよ、塚ちゃ」
みしみしと音を立て、塚ちゃんの膝の下でガラスが潰れた。ジーンズを履いているのでよっぽど大丈夫かもしれないが、今の塚ちゃんには痛々しすぎる気がした。私の忠告なんてなかったみたいに、塚ちゃんはそのまま顔を俯ける。
「……塚ちゃん……膝が」
「かわいい声も、かわいい涙も、僕にはないから羨ましいよ」
感情が押し殺された、静かな言葉だった。
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2013/08/31 接吻
優しく愛してほしい
なでて
なぞって
わたくしの輪郭を
あなたの指で
わたくしの輪郭を
あなたの足元に
必要とあらば跪く
枯れて盛る木々や花々
美しい季節の中で
わたくしの輪郭を
あなたの輪郭で
わたくしを女にして
わたくしを男にして
立ち上る色香を封じて
ただ、あなたのものにして
2013/08/12 薄明かりのミッドナイト
カズオは、顔の右半分、俺から見たら左半分が爛れていた。皮膚の病気なんだそうで、その青い目はぱちくりとしているのに、まなっちろい肌はボロボロになってまるでケロイドのようだった。
左半分、俺から見たら右半分はまるで映画に出てくるような、海外俳優のように端正な顔をしていて、こちらはその髪の毛と同じ金色の眉毛が凛々しくそこにあった。
口をきいたことは殆ど無い。名前を聞いたのも彼からではないし、噂では耳を少し患ってるとかいう話だ。
いつも屋敷の窓際で本を読みながら、たまのそよ風に顔を上げる。そのぐらいしか、俺には、カズオの情報はない。
---------
「僕にはね、特技はないからね」
口の端に赤い血を滲ませ、カズオは言った。少し呂律が回っていなかったが、難なく聞き取れる言葉だった。俺は、カズオが話したことよりも、彼の血が赤くて俺や公子と同じ人間なのだということに驚いた。どこか作り物のような彼の美しさと、どこか壊れ物のような彼の危うさが、俺には、到底人間のようには思えなかったからだ。
「……なぜ、そんな驚いた顔をするの? 僕が外国語でも話すと思ったかい? そりゃ残念、僕はなんにも話せやしないよ」
するするとこぼれる彼の言葉に、投げやりな意味を察し、俺は彼の足から飛んでいったズックを拾って差し出す。カズオは、俺の千切れた鼻緒を見つめていた。
「演技、悪いね」
---------
今考えている話だけれども、全然繋がらない。
BLはとても難しい。
2013/08/02 うつくしいガラス玉が割れたら
世の中には欺瞞があふれている。
そういう颯太君は、でも、私は正しいとは思えなかった。お前だって嘘ばっかりついてるじゃないかってこっそり心の中で毒づいてやる。
颯太君はずるいのだ。嫌だ嫌だといいながらも人当たりがよくって、そういうのがなんだかんだうまくて、誰にでも好かれるのだから。欺瞞だ欺瞞だと言いながら、その欺瞞を受け入れているのは、お前だろうと思う。それはもう欺瞞じゃない。
わかっていながら、それに身を浸すのは、欺瞞なんていって非難する資格はない。彼もりっぱなその一部なのだから。嘘をつけって思って、私はゆっくりとビールを口に運んだ。
「颯太さん、梶本さん、飲んでますかあ?」
一年後輩の遊佐さんとかいう女の子が私と颯太君の前に座った。人事課の颯太君は今年新人の研修を担当していたので一年後輩たちの顔をよく知っている。私は何度か経理に来ていた彼女のことは顔も名前も知っていたけれど、じっくりと話したことはなかったので少し身構える。
「遊佐、お前飲んでる?」
「はい、飲んでますー、学生のときはビアガーデンとか来たことなかったから新鮮で、よかったです、これて」
「部長のおかげだかんな」
「はぁい、でも、颯太さん、誘ってもらってありがとうございます」
私は二人の会話を聞くともなしに聞きながら、ぼうっと喧騒に混じるいろんな会話にも耳を向けた。がやがやと、いろんな人がいろんなことを一斉に話しているせいで、何がなんだかわからなくってただただ目の前に映る景色が、耳に入る言葉が非日常としか思えない。
「梶本さんも、来てくれてうれしいです、なかなか来てくれないから」
「いや、いやいやいや」
「人見知りなんですか?」
そういうことを聞いてくる一年目のお前たちが苦手だから、そもそも、上の人に気を遣ったり気を使うことで気を引こうとして、そういうしたたかなな人間が好かれる空間だから、そしてお前たちはそういうしたたかさを持っているから来たくないんだ、とは言えなかった。
大人数の飲み会は自分の居場所がないということにスポットライトを当てられるようで、嫌いなのになおさらこんな場所は嫌いだ。仲の良い同期もおらず、喧騒の中で自分の周りだけが真空状態のように無音で息苦しい状況を、したたかな人間はいとも簡単に打開していく。そういうのが、私はできない。できないからこそ、来たくない。そこにいることに意味がある、なんていうのは、嘘だ。そんな言葉を考えたやつは、陽のあたる場所でしか生きてこなかったやつだ。
颯太君と遊佐さんはけたけた楽しそうに会話をしている。私はその会話を耳でとらえながら全く笑えなかったのでただ黙って、また、ビールを口に運んだ。楽しめる奴だけが楽しめばいいのだ。私の周りがいくら真空状態になっていたとして、それがどうだっていうのだろう。私はただ、したたかさがないからこそ、僻んでいるだけなのだ。
一年目を嫌うのも、自分が二年目なのに物覚えもよくなくてかわいさもないし、あんなふうに明るくふるまう元気もない。そういうのを求められていると分かりつつも改善する気もない。
ただただ、いろんな物事に閉口するばかりなのだ。
「かじちゃん来てくれるとは思わなかったよー」
今回のビアガーデンを部長と発起した戎くんが私の隣に座った。いつのまにか颯太君は部長と、部長を取り囲む一年目の女子たちの輪に入っている。私はイス一つ分離れた場所に座っていて、これでは真空状態というよりも宇宙に一人投げ出されているみたいになっている。それを見かねたのかもしれない。戎くんはいかにもな優しさを振りかざす子だ。
この飲み会は、あまり新人社員と交流のない部長が、同じ部の人事課や経理課そして総務課の一年目と二年目とを集めてのみに行こうと言い出した。それでその三課の一年目二年目を合わせても女子は私一人だったけれど、気付けば他課の一年目の女の子も来ていて、もともとないようなものだった私の意義はまったくもって無くなったのだった。部長が発起して、三課の一年目二年目が来いというのだから来たのに、結局他の一年めの女の子が目当てだったのは目に見えているし、だったら私は来たくなかった。こんな真空状態をなぜ味合わねばならないのか。
「でも私、来なくてもよかったと思う」
「またー、かじちゃんはなかなか飲み会来てくれないから、同期会もさー、ね」
戎くんはやきとりをもりもり食べてあは、と笑った。何がおかしいのか一切笑えない。同期も、仲の良い子は限られているので、どうせ同期会に行っても他の子と話すこともないのだから意味がない。親睦を深める気はない。だって、仲良くないのだから。この先も、なる見込みはないのだから。
「あ、戎さん、梶本さんと話してる、私も話したいです」
営業部の海江田さんが今度は正面に座った。
「おい、河本、かじちゃんは俺と話してんの」
海江田さんじゃなかったらしい。私はまた、ぬるくなったビールを飲んだ。
「梶本さん、レアですもん、一年目と二年目の飲み会来てくれなかったしい。うちら、嫌われてます?」
「あ、やだ、違うよ」
へらりと笑う。そうすると、河本さんがにこっと笑った。正直、吐きそうになる。
***
ということがありました。
2013/07/18 真珠の首飾り
私が母にねだったものはほとんどなかった。
というと、なかったというくせにあったのか、と言われてしまいそうだけれど
自分の記憶の中で覚えている「おねだり」はまったくない、という意味だ。もちろん、私だって世間一般のそれなりな子どもだったのでねだったことも数回あろうが、それでもまったく覚えていない。
ただ一つ、覚えているのは、就職したてのときにねだった真珠の首飾りだった。
しかも、正確に言うとねだったというよりも、母が何か就職祝いに買ってあげましょうかね、と言ってくれたのでじゃあ真珠で、なんていう話の運びだった。母は、あんまり物欲のないあんたでも、そういってくれると嬉しいね、なんて言っていたのでやっぱり私は小さなころからねだることはしない子どもだったようだ。
そんな話をすると、男たちは少し悲しそうに笑って決まって私の頭を撫でた。
大きな手もあれば小さな手もある。肉厚の手もあれば貧弱な手もある。その手で、私を憐み私を弄ぶのだ。
男性はロマンチストなのだ、というのが、この仕事についてからよく思うことだ。男は論理的に考えられる生き物のはずなのに、プライベートの、殊に色恋沙汰になるときまってロマンを求め始める。
ロマンってどういう意味なのか、私は今まで調べたことはないけれど、辞書よりもその意味を実感として理解していると思う。
「それで、真珠の首飾りは買ってもらったの?」
その夜も、立花さんという常連客は私の頭を愛おしそうに撫でていた。彼にとって、この話のオチが買ってもらっていても買ってもらっていなくてもどっちでもいいのだ。ただ、私が彼を頼って自分の昔の話をしているというこの状況と、彼がその話を聞いて子どもなのに無邪気にねだることを我慢していた私の偶像を、彼が丁寧に仕上げていることが大切なのだ。
「うん。最初で最後のおねだりだったかも」
「そうか。なあ、俺におねだりしてみてよ。なんでも買ってあげる」
「立花さん、誰にでもそういってそうだよ」
「里佳子だけだよ」
立花さんの手は、どちらかというと女性のような色白の長い指をしている。触るときもどこかフェミニンな感じがしていた。
***
久しぶりに何か書きたいーと思って
久しぶりによくやっていた断片を書いてみると
気付かなかったことに気付けるようで
また、日記つけよーと思う日々でした。
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