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2014/12/07  「何処へも行けない」・「羽ばたき」・「空にかける橋」感想
今日も今日とて感想。

「何処へも行けない」初川遊離著/A6判/500円
『郁さんは僕を日向とは呼ばない。自分でつけた名前のくせに。』
都心から少し離れた、商店街のある下町で、ひっそりと身を寄せ合う二人。九歳年の離れた彼らは、親子でもなく、兄弟でもない。彼らを結ぶ繋がりは彼らの他に誰も知らない、ーー閉じた世界に逃げ込んだ二人の穏やかな逃避行を描く、文庫サイズの中編小説。
――文学フリマウェブカタログより。
ウェブカタログで気になったので購入しました。買った後に気付いたのだけど、先日感想を書いた東堂冴さんという方の本の解説を書かれているのが初川さんで、今回のこの本の解説を東堂さんが書かれていました。そういやブースでも、東堂さんの本が委託されていたわ…と後から思い出す。
文章は読みやすかったです。内容はともすればヘビーなはずで、語り口も軽いわけじゃないんだけど、その重さは感じさせない感じ。ん?なんか変だな。いやでもそんな感じ。
あらすじの通り、丹精な顔立ちの郁(かおる)と日向(ひなた)は二人暮らし、だけど、二人の関係は全然明かされない。あと、郁の仕事場の後輩である伊豆野と、取引先(というとちょっと変だな)の藤沢、の四人がメイン。あと、郁の高校時代の彼女。私はこの彼女が好きだった。というか伊豆野はメインとくくっていいかわからないし、私もこいつ当て馬的かと思ったら、最後の最後で大切なメタファー的な(使ってみたかっただけ)。ちなみに彼女以外みんな男なんだけど、書いてるのが女性だからか、むさくるしさとか、ちょっと現実味がないような気もしました。別にそこがメインじゃないんだけど。「兄」とか「弟」というものが根幹にあるので、どうしても男が多いんですね。「弟」は「兄」にはなれないし、「兄」は「弟」にはなれない。でも、「弟」は「兄」がいるから「弟」で、「弟」は「兄」がいるから「弟」たりえる。メインの四人の中で、唯一このルールにのっとってるのは伊豆野だけ。だから、彼が最後に、郁を叱る人に選ばれたのかもしれない。でも、郁にとって、やっぱり伊豆野は兄じゃないんだよね。
ちょこちょこ、本編と関わるように短い挿話があるんだけど、この目線が誰なのか、どういう風に本編と関わるのかがちょっとした謎解き気分。場面の切り替わり方がちょっと読みづらかった気もしないでもない。女の子が主人公のお話読んでみたいなーと思いました。

「羽ばたき」ほしおさなえ/A6判/1,000円
「空にかける橋」ほしおさなえ/A6判/900円
この方、職業作家さんなんですね。あ、もしかして、と思ってなんか知ってた気がしていたけれど、ささやななえこ、と、ほしのこえ、が頭の中で合成されていました。
ほんで、「羽ばたき」は小説の短編集。「空にかける橋」は100の詩を集めた詩集でした。

「羽ばたき」→かつて同人誌「ウルトラ」「明空」および個人サイトに発表していた短編小説を集めたものです。 <収録作品> 直径1・5メートルの眼球、水爪、フタバハウス、グジグジ、魚のいない街、穴あきドロップ、羽ばたき、石をつなぐ男――文学フリマウェブカタログより。
「羽ばたき」を読んでいたら、あんまり詳しくないんだけど安倍公房を思い出しました。赤い女だったかな、繭だったかな…あ、赤い繭。それを読んだときの気持ちになりました。
はっきり名言されない関係性、ちょっと目を離すとすぐにどこかに迷い込んで行ってしまう。主人公たちはまるで意志があるのかないのか、ミクロなのかマクロなのか、うーん、と頭をかかえつつも、でも、ところどころの言葉が好きでした。たとえば、湿気がありすぎて産毛が目いっぱい生えてしまった空気、とか、愛という字は角ばっかりで触ったら痛そうとか(原文ママではないですけど)、感覚的な比喩が良かった。全体的に、自分が自分に入り込む、他者が自分に入り込む、とか、自分の輪郭がなくなるとか、ということが多かったように思います。自分は自分自身を自分で見ることは、決してできない、ってことかもしれない。そこには他者が必要なんだけど、他者が介在してきたことによって自分はもはや介在する前の自分ではないのかもしれない。
穴(肌とかにぷつっと開いているような穴)から自分ではないものが入ってきたり、吸い込まれたりする、という表現が多くてちょっと不気味でした。いい意味で。

「空にかける橋」→むかしサイトに公開していた「the bridge to the blue sky」という短い詩100編の連作を改題し、文庫サイズの詩集にしました。装画は美術作家の大槻香奈さん。――同じく文学フリマウェブカタログより。
こちらは詩集。五行ぐらいの詩が100編。言葉の選び方が清新で青空の海鳴り(まったくおかしいけどそういう感じ)が聞こえている感じがした。詩は不思議ですね。自分ではあんまり書けないせいかもしれない。
あとがきが載っていて、そこに、
「世界は大きいのです。その衝撃で、言葉がふだんのつながりからほぐれ、漂い出しました。その断片をつなぎあわせたのがこの作品たちでした。夢は砕かれた言葉の欠片が集まったようなものと聞きます。(中略)夢の終わりに、わたしたちがたどり着く場所。わたしはその記憶を書き留めたかったのかもしれません」
とあって、あ、きっとこれがすべてなんだな、と思いました。このあとがきは「空にかける橋」にあったものだけど、「羽ばたき」にも共通するんじゃないかな。

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今日はめちゃくちゃ寒かったからびっくりした。職場で一人仕事をしました。職場だから当たり前だ。

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