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どこをみているの
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2011/08/25  VOICE
ねえ聞いてる?

あたしの声はただ空中にふらふら浮いてそのうちどこかに逃げてしまいそうだ。
どうせそんなもんだろうとわかってはいたけど、気のない背中を見つめるのにはもう疲れた。

ねえ、聞いてるの?

もう一度いっても、返事はない。
寝息は聞こえない。フリをしてる。起きててって、いったのに。
隣の布団に寝転ぶ静は背中をむけたまま、全く動かない。
豆電球だけの明るさの中、ずっと起きていたあたしにもさすがに色は識別できない、けど、
彼の明るすぎる金髪はよくわかる。生え際が黒くなってることも。
いつもワックスでたたせてる髪の毛はぺったりと頭の形にあっていてなんとなく笑えた。
でも、そんなの本人に笑って話せない。もういつから、あたしは彼にわらいかけてない。
彼も、あたしと話すときはこっちを見なくなった。笑っても怒っても、見ないのだ。
意志疎通ができているフリ、が、あたしたちはうまくなった。
好きで付き合って、わからないことさえ楽しくて、それを貪っていたらいつのまにか、なくなっていた。
楽しさに上限がないなんていうけれど、あたしたちには、のびしろがなくて、
のばすきもなくて、ただわからないことに甘えてわかろうとなんかしなかった。
見えていたと思っていれば見えていたような気になるけど、結局見えないことに気付くと見えなくなる。
当たり前のことに、当たり前に気付いただけなの。

全部、うそ、だよ。

聞いてないなら、と思って、でも怖くて少し、いやだいぶ声を落として言った。
相変わらず静は動かない。起きてても、もういいか、って気持ちにもなる。だってもう、どうでもいい。
たまに静が見せる必死な顔につられて、好きとか嫌いじゃないとか言ってみて、でも結局嘘になる。
そういったあたしをあたしは嫌いになるし、それに気付かない静を嫌いになるし、いつか静にバレて静は自分を嫌いになるし、その嘘をついたあたしを嫌いになる。
好きになることしかしなかったあたしたちにはあと、嫌いになるしか手段がない。
一緒にいなくてもいい理由も、一緒にいる理由も、それしかない。だから、もう、どうだっていいの。

悔しくない?あたしちょっと悔しい、けどさ。
どうしていいかわかんないよね。
もう言い訳も、できないもんね。

静は起きない。
起きててもふりかえらない。だからあたしたちはおわってる。
でも、自分たちから終わろうてしない。
自分の声だけは届いてるって思いたいから。相手は自分の声を受け取って動いてるって思ってる、だから。

ねえ、聞いてる、わけないね。

あたしの声はばかみたいに震えていた。天井にある豆電球がぶわっとぼやけてつぶれた黄身みたいだった。

聞いてるわけ、ないね。

あたしは静に背を向ける。と、それに続いて静が寝返りする音がした。呼吸をわずかにとめる。

鳴子、あのさ。
俺たち卑怯でばかだね。なにも、うまくいかないってわかってる。
でも、なんでこんなに。

静の声もばかみたいに震えてる。あたしは返事をしようか迷いながらじっと彼の息遣いを聞いていた。
どこを好きでどこが嫌いか、冷静に考えようとしながら。

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