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2013/12/25  Noël
「石渡さん、あれ」
「はー」
 きらめく町の明かり、というよりも、下卑た妄想が形になったようなイルミネーションは見ていても大して面白くない。生まれつきキリスト教なわけでもないこの国でどれだけ電飾を施そうとも本場の心意気にかなうわけがないんだよ、と、石渡さんは鼻を赤くして言った。私が指差したのはピアノが形度られたモニュメントで、その上にツリーが乗っていた。音楽とクリスマスのコラボレーション、とかいう案内看板がそばにあって、ベルの音でいろんなクリスマスソングが流れていた。ピアノの電飾なのにベルの音なんだね、と、石渡さんは笑う。
「鼻赤いね」
「寒いもん。紅子は」
「私はそんなに」
「そもそも薄着だよね。なんで真冬なのにトレンチコートなのか意味不明なんですが」
「石渡さんは着こみすぎなのになんでそんなに寒がりなの」
「日本は寒い」
「でた、ヨーロッパかぶれ」
「あのなあ」
 石渡さんはスヌードをぐるぐる巻きにして裏起毛のボアが付いたダウンを着て、中にもセーターを着てタイツを二枚履きにしてコーデュロイのスキニーパンツを履いている。もちろんボアの付いたブーツもしっかり履いていて、それなのに寒さゆえに鼻を赤くしているのだ。持っていたスターバックスラテを一口飲んで、冷たい、とこぼす。
「もう冷えた」
「十分も持ち歩いてたらそりゃ冷たくなるよ」
「紅茶が飲みたかった」
「紅茶のテイクアウトもできたんじゃないの」
「コーヒー屋の紅茶なんか飲めたもんじゃないよ」
「そう」
「そう」
 でも、寒空の下、イルミネーションが見たいと言ったのは石渡さんなのだ。芸術劇場すぐ裏手に控えるこの公園で、音楽がテーマになったイルミネーションがやっていると聞きつけたらしい石渡さんは、仕事帰りの私を捕まえて、駅を三つ乗り継いでやってきた。けれども、本場のクリスマスのイルミネーションを知っている石渡さんは、やっぱりねえ、とつまらなそうに言うのだった。
「はー、でも、ちょっと面白い」
「ならいいけど」
「必死さがいいよね。カップルも、なんでこんなの見に来るんだろうね。結構人気なの」
「テレビでもやってたよ。このあたりでは最大規模だって話だし」
「ふうん。じゃあアメリカやヨーロッパの電飾見たらたまげるじゃない」
「そう?」
「うん。うちのアパートもよくやってたよ。そのせいでたまにブレーカー落ちちゃうし」
「迷惑」
「でも、それが当たり前なの。それをみんな、楽しみにしてた。日本はさ、なんか浮いてるよね。恥ずかしさもちょっとある感じがする。そんな感じするでしょ」
「わかんないけど」
「ね、今度さ、きなよ。ドイツ」
「うん」
「あ、これはこないやつだね」
「どうかなあ。ねえ、正直、私、ここに石渡さんがいるっていうのが違和感あるよ」
 昔では言えなかったはずのこと、私はもう、言えるようになった。

***

書きたかったのだけど、もう眠いのでおやすみなさい。

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