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どこをみているの
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2013/05/16  All Light
「俺が殺したようなもんだから」
かなちゃんの、大きく見開いた瞳から水飴のようにドロリと涙が落ちていった。フローリングの一点を見つめる彼に、私の声は今、とどかないことはよくわかっていた。
一粒落ち、また一粒落ち、水たまりがどんどん大きくなっていく。手をついたままの指先がじわりと濡れた。
かなちゃんの遠い親戚から送られてきた、分厚い手紙もよく水を吸う。水性ペンのインクがどろりと、紙に滲んでいた。
「あんな親に和左が殺される前に、俺が殺しておけばよかった、それでよかったんだ」
「かなちゃん」
それでも言わずにはおれなかった。彼は今、ここにいて、私の向かいで泣いている。それが、本当のかなちゃんで、ここは、雨の中の、かずくんが放り出された田んぼの真ん中ではない。失われた温度は戻りはしないけれど、戻らないものほど恋しくもあるけれど、どうか、自分がいるのはここなんだと、忘れないで欲しかった。
「かなちゃん」
「本当に、かずは本当に泣かなくて、おとなしくて、俺なんかよりよっぽど頭が良くて、優しくて、和左が死ぬのは、間違ってる。俺が、本当は、俺が、止められたはずで、それで、かずは、だから、」
「かなちゃん、」
「和佐、ごめんな、和佐、ごめんな」
かなちゃんが泣き崩れる。私はただ、何もできないまま、崩れたかなちゃんの、ぐしゃぐしゃに乱れた髪の毛をそっと撫でた。汗の匂いがふと漂う。かなちゃんの、涙の匂いかもしれなかった。濃厚な、悲しみの匂いだった。

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