どこをみているの
2025/02/07 [PR]
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2013/05/13 (no subject)
クソッタレ。
その呟きがテンパの耳元をかすめた瞬間に、ツァムジューの顔は程近く、何かを尋ねようとする間もなく、唇が触れる。毒々しいほど濃いタバコの味が、ツァムジューの舌を伝いテンパの舌に届く。砂煙のような味もする。驚き、跳ね除けたが、ツァムジューは普段と変わらないひょうひょうとした顔をしてみせた。
「……何を、」
「坊さんの驚いた顔、見たくてな」
「愚弄するな」
「お前、本当に、分かんないのかよ」
ぱたぱたと、布製の屋根に雨粒がぶつかる音がし始めて、あっという間に土砂降りになった。臙脂色の僧衣がより、色を濃くしていく。あらわになっている左肩に、ツァムジューの手が置かれた。ヤケドをしてしまいそうなほど、熱い。また払い除けてやろうと思っていたのに、テンパは動けずにいた。ツァムジューが、おそらく、初めて茶化すことなく自分を、見ている。
漆黒の、瞳に、自分が映っている。
その事に、慄き、そしてまた、興奮すらしているのだった。
ツァムジューの顔がまた近付いてきて、今度は抵抗なく、キスをした。
「……慣れりゃ、こっちのもんだろ。なあ、テンパ」
突き放そうとツァムジューの胸に手をついたまま、抱き締められる。同じような体格の、同い年の男に抱き締められる感覚は、如何とも言い表せられない愛おしさと悲しさが同時に湧き上がってくるものだった。
「お前も、俺のこと好きだろ」
答えない。答えられなかった。答えてしまえば、今の自分も、これからの自分も否定することになる。答えてはならない質問だった。
ツァムジューが急かすようにまた、唇を貪ってくる。二人を濡らす雨が、くっついている唇だけを避けて流れていく。僅かに口腔に流れ込んだ雨は、どこかホコリ臭い。
「っつ」
テンパの口端に鈍い痛みが走る。ツァムジューの口元と、にっと笑った歯に赤いものが付いていた。噛み付いたのだと気づく。
「……なんてこと、」
「俺は、お前とヤリたい。テンパ、お前と」
「ツァムジュー、私は、」
「なあ、テンパ」
じりじりと壁際に追いやられる。雨は、より一層勢いを増し、二人を濡らす。濡れたツァムジューの黒いTシャツは彼の体に張り付いており、その下につく薄い筋肉の存在を主張させていた。
自分とは違う道を歩んできた、同じ名前を持つもう一人の少年。もう一人の自分。
なぜ私たちの道は交わったのだろう。
仏の采配か、試練か、こんなにも辛いことを。
+++
力尽きる。
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