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どこをみているの
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2012/05/07  モノクロ
きみのひとみにうかぶのはとおいきおく
いろあせたモノクロのなつやすみ
きみのかたるわずかなかなしみは
ぽたりとたらしたインクのようだ

いつもだれかがきみをおもう
だれかのためのぼくでありたい
かれのようなしろいださんをてにいれたなら
きっとこんなにくるしくなかった
いつもアンフェアなけいさんはにがてだ

だれもしらないきみであれ
ぼくもしらないぼくがいう
かなしいことはごまんとあれど
たのしいことはいくばくもない
さしひきしてみせて
なんにしろ、どれにしろ、きみのせかいがいろづけばよい

ぼくのひとみにうかぶのはとおいねむり
いろあせたモノクロのひるさがり
ぼくがおちるわずかなくるしみは
ぽたりとたらしたなみだのようだ

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2012/04/28  翡翠
爪が透けている
白熱灯の下で熟れたココナッツみたいな色に

まぶたが泣いている
忘れてほしくないとわがままをいった幼子みたいに

翡翠のように
あまい緑色であったなら、きっと
私に流れ込むあたたかなうたをとりこぼさずにいられたろうに
けだるげに寝転んだのは
きっと真っ黒なこころをゆるすけだもの

私のものにならなくていい
あなたのものも、ない
ただ、どうか、そうして、
翡翠のような色に交ざれば

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2012/04/23  どうせ忘れるんだから
どうせ忘れるんだから
そんな悲しいこと言っちゃって
夢見てもいいじゃないの
あたし、眠るわよ

大きなよらば大樹の影で
いっぱいお昼寝するわよ
鼻の頭にはモンキチョウが止まる
あたし、起きないわ

だからゆっくり脱がして
ゆっくり抱いて
乳房の上を春風が吹くように
優しい指先で愛撫して

どうせ忘れるんだから
そんな悲しいこと言っちゃって
傷ついてもいいじゃないの
あたし、恐れないわ

あたし、恐れないわ

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2012/04/18  万年筆2
「鮎子、私はね、」
「私はもう、学生じゃあありませんし、他人でもありません。そんな、諭すようなこと、聞きたくありません」
ときたま、鳴瀬さんが語る鮎子さんは強情で子どものようにわがままだったが、今はまさにそのようだった。
私は相変わらず戸口に立ってぼんやりと会話とはよべない言葉の哀しげな行き来を見守るしかない。
二人は私の存在に気付いているだろうがしかし、やめる気もないようだった。
「君が聞いてくれないなら意味がないのだよ」
まるで小さな子を諭す体を崩さず、鳴瀬さんが言うが、鮎子さんは耐えられなくなって溢れた涙を溢しながら部屋を飛び出した。
途中、私をちらと見て眉毛をへの字にしたまま微笑んだが、それに反応するより早く彼女は白い廊下を走り去ってしまった。
首を捻って鮎子さんを追っていた鳴瀬さんと目が合う。
「……すみませんでした、もう少し遅くに来たらよかった」
「鴎四朗くんが謝ることはひとつもないさ。眠り姫を起こさずにすんでよかった」
寝ている葵のそばの椅子に腰掛けて、しばらく布団の作るひだを見つめていたがそれもどことなくバツが悪く、こっそりと鳴瀬さんの方を見た。
彼は包帯の巻かれていない方の目で懸命に画板を見つめ、震える指で何かを書き付けていた。
私の視線に気付いたのか――病になってこの方、葵もそうだが自分以外の雰囲気に随分敏感である――、彼は顔を上げて口を開いた。
「…彼女、頭に血が昇ると周りがわからなくなるところがあってねえ」
「葵もそうですよ」
「美人は決まって気がつよいものさね」
「はっはっ、惚気ましたね」
「中々自慢することもできないからね。藤崎が懸想するのもわかる」
「えっ」
思わず自分の口から漏れた声があまりに間抜けで、恥ずかしく口を押さえたものの出てしまったものは隠しようがない。
鳴瀬さんはにこりと笑って画板にまた向き直る。だが、彼の意識がまだ私の方に向いているのはよくわかった。
「自慢の女性と、頼りになる旧友に遺言を残すのは馬鹿げていると思うかね」
二回目の間抜けな声が出てしまいそうになり、口をつぐんだ。

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2012/04/10  万年筆
ぱちん、という可愛げがある音と同時に病室の前にいた私は、しかし、決して可愛げな出来事があったわけではないのはよくわかっていた。
黄ばんでしまってもはや黄色に染まったカーテンが閉まっている病室は、いつも春の夕暮れのような色をしている。
昨日までの寒波が嘘のように、今日の昼間は汗ばむほどに暑かった。
春になると日差しの色も温度もかわる、といったのは葵だったろうか。
湿度を帯びるゆえに体感する温度が高くなるのはよくわかっていた。
病室の前に立ち尽くした私は、静かに小鼻の汗を拭いた。
「ごめんなさい」
小さな声は、不自然に手をあげたままの鮎子さんの口から漏れたものであった。だが、その声音は決して自分に非があるとは思っていない。
私は相も変わらず間抜けに立ち尽くしたまま寝台に身を起こしている鳴瀬さんを見つめていた。
首から画板をかけている先生は、なけなしの指で万年筆を持ったまま固まっている。
鮎子さんも鳴瀬さんも、わずかに震えているのがわかった。
「……先生、あんまりだわ」
「鮎子」
「藤崎さんも私もそんなことを望んでなどいませんし、それは、あんまりだわ」
最後は言葉にならないようで、泡のようにぶくぶくと固まってどこかに消えていった。
幸いなのか、葵は寝台の上で静かに寝ている。一度寝入ると中々目覚めないのは、普段共に生活していると難点であったが、今はそのまま眠っていてほしい。
葵は二人が諍いを起こしている姿など見たくないにちがいない。

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