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2014/09/25  ジェリービーンズの雨
「まる、俺は、死ねると思ってた。和比古の手が冷たくなるにつれて、俺もいつかこんなふうに温度をなくして死んでいくんだって」
台風の接近のせいで、今夜は大雨になると言っていた。窓には雨粒が打ち付ける音がする。大きく、固く、でも、石ほどは固くないもの。私はなんとなく、ジェリービーンズが窓にぶつかっていたなら少し楽しいのにと思う。こんな憂鬱が少しでもカラフルに彩られたら、こんなにも、この雨の音が絶望の足音には聞こえないはずだ。
かなちゃんの家の外でもきっと雨は激しく降り続いているはずなのに、彼の不思議に落ち着いた声だけがする。
「でも、俺は死ななかった。親に傷を負わせて、親戚に保護されて、谷間を吹き抜けるごうごうという風が怖かったんだあの家は。雨が降ると、死にたくなるほど頭が痛くなるのに、和比古の手の冷たさを思い出すのに、俺の指先も足先も気づけばあったかかった。親戚の声も、まるの手も、あったかかった。死ねなかった」
ふん、と、彼が鼻だか喉だかを鳴らす。
「温度はなくならなかった。なくならないかわりに、和比古の冷たさもなくならなかった。まる、俺は、」
何度も、私の名を呼ぶ彼は雨の檻の中で何を思っているだろう。私はその檻を開けてあげなければいけないのか、連れ出してあげなければいけないのか、檻へ一緒にはいるべきなのだろうか。彼が小さく息を吸う。
「生きてて、いいのかな」
息が詰まる。彼が今、生きているということが、いとおしい。
「和比古の冷たさを知ってるくせに、俺は、まるに甘えて、それでも生きてて、」
「いいよ」
鼻の奥がつうんとする。まるで出来合いのようなその痛みに、涙が誘発される。でも、私の声は震えなかった。
「いきてて。いいよ。いきて。いいよ」
かなちゃんはしばらくの沈黙の後、また、ふん、と、鼻だか喉だかを鳴らす。

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