どこをみているの
2025/02/06 [PR]
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2014/11/14 ねこまんま
携帯を開くとラインの緑のアイコンの上に赤い数字が躍っている。未読のメッセージ数を伝えるその赤い吹き出しは、73の数字を示している。うんざりしながら、アイコンをタップするとメッセージを送ってきている人がずらりと並ぶ。高校の同級生の女の子で作ったグループのメッセージが54、正樹くんが4、エイジくんも4、孝則さんが2、今ちゃんが8、そして恵が1。他のどの未読メッセージよりも恵の1が目に着く。しかも未読メッセージの中でも彼のものが一番下ということは、一番古いメッセージということになる。彼の名前をタップしなければ私が読んだことを知らせる既読はつかない。長いメッセージとか複数のメッセージだとタップしないと内容は見れないけど、彼のメッセージはいつも短い。そして大体一通で終わっている。
「今、どこ?」
それだけかよ、と、心の中で悪態をつきながらトイレの個室から出た。地下三階にあるこの女子トイレにも地下一階にあるクラブの爆音が響いてくる。重低音ばかりが壁を揺らす。地響きの中心にいるような気がして足元がふらついた。今日は飲みすぎたかもしれない。といってグラスビール一杯とジントニック一杯だけだ。最近、飲んでなかったから。クラブの雰囲気の所為もあるかもしれない。サイハイブーツとツイードのショートパンツの間から覗く自分の白い太腿が大福みたいに見えた。
「さきちゃん、大丈夫ぅ?」
答える前に小太郎ちゃんが女子トイレに顔をのぞかせた。丸坊主にした頭はとっても綺麗な形だ。耳には大きなイヤーホールのピアスが目立つ。子犬みたいに真ん丸の目を、お酒の所為で少し充血させていた。
「大丈夫だよ、ありがとぉ」
トイレ入ってんだから呼ぶなよこのガキ、と思いながら、でもこういうときはお礼を言うのが当たり前だ。今夜をともにするならなおのこと、彼に最後までお持ち帰りされるためにはかわいくってちょっとわがままな女の子になりきればいい。私を確認した彼は、ごく自然に腰に手を回してきた。ぎゅうと圧迫されると、自分が女なんだっていうことを実感する。男に触れられると、私は自分を自覚する。いつも定まらない重心が、途端に子宮のあたりにすこんと落ち着く。
くそみたいな遺伝子だ。でも、これが、私にとっての真理なのだ。
「ね、この後どうする」
彼の熱い息が耳元を揺らす。階段を一段上がるたびにクラブの音が大きくなる。聞こえているくせに、なあに、と聞き返すと、彼はより私に近づいて問うてくる。どさくさに紛れて頬に僅かに唇が当たった。ふ、と、笑みを持った瞳で見ると、彼も示し合わせたようにふ、と笑った。金曜日の夜ということもあって、クラブのフロアはむせかえる人の熱気と匂いで飽和していた。体全部が揺れるような音楽と、吐きだしそうになる人のうねり。もみくちゃになりながら私も小太郎ちゃんも体をぶつけ合った。二曲踊り、何がおかしいのか大笑いして外に出る。急な寒さに頬がひきつって笑うしかなかった。
「ホテル、行こっか」
小太郎ちゃんが慣れた手つきで私の肩を抱いた。男にしては小さい手だが力はもちろん男のそれだ。ああ、彼に抱かれたい。上手いか下手かはおいておいてとにかく男に抱かれないと女の私は眠れない。どこでもいいから早く行こ、と耳元でささやくと彼は隠すこともなくいやらしい笑みを浮かべて足を早めた。
***
再来年ぐらいに出したいな~と思っている本のお話もちょこっとずつ書き始めていてこれも掲載したいところです。
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