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2015/05/31  「痴人の愛」感想
もう5月が終わってしまう…これから嫌いな夏がくる…
と戦いていて、なんだかとってもらちが明かないと思っていたところ、神奈川の近代文学館で「谷崎潤一郎展」がやっているというので先週の土日に行ってまいりました。本当は今週からやっている「中勘助展」にもひかれたのだけど色々タイミング的なこともあって谷崎潤一郎展へ。そもそも、谷崎潤一郎の作品は国語便覧のイメージからすると谷崎潤一郎って「卍」ってレズだし「刺青」ってタイトルだけで過激っぽいし官能小説なんじゃろうと思っていたんですよね。でも、大学時代に「春琴抄」を読んで初めて「こんなフェチズムにあふれているのにどうして清廉な物語だろう」と衝撃を受けて。他にも太宰治や中島敦なんかにも感銘を受けていた時期だったから、大正・明治・昭和初期の、近代文学の全盛期の物語にはなんかもう並々ならぬ崇拝をしている気分です。
で、まあ、そんなことはいいけれど、「春琴抄」以外で読んだことのなかった私。
谷崎潤一郎展に行ったところで何か面白いだろうか…と思ったけれど、いや行って大正解。中島敦展以来二回目の訪問でしたけど、やっぱり作家の中身が垣間見れるのっていうのは最高に面白いですね。
谷崎潤一郎その人が、まるでもう、本当に耽美の人っていうか、生き方がすごい。結婚三回もしてて、女性へのあくなき探究心というのかなあ、マゾヒズムがものすごいね。どうしてこうも女というものに固執して崇拝して耽溺できるのかなというか。でも、太宰治みたいに身をやつしてまで、というよりも、その向き合い方が真っ向勝負という感じなんだよなあ。そりゃやってることはむちゃくちゃですよ。好きな女ができたから嫁さんと別れたり、でも嫁さんが浮気ちょっとしてたらそれを許さなかったり、なんかすごい。なんというか。あと、3mにも及ぶ長い書簡というのがありまして。
三回も結婚している男なので、奥さんも三人いれば子どもも色々いいるわけで、私は途中から妻や子どもの名前が全然覚えきれませんでした。二人目の奥さんにあてた手紙だったか三人目の奥さんにあてた手紙だったかで、自分のことを召使のように扱ってくれ、それでいい、という手紙があって、もうこれはどんだけ探求してるんだと。どんだけ固執してるんだと。すごいですね。小説と自分の性指向というのか、なんかもうすごい色々合致しちゃっている。
見終わった後には谷崎の小説もっと読みたいな~と思ったんですが、ひとまず有名なものをと思い「痴人の愛」にしました。辿りつくまでが長すぎる。

◆「痴人の愛」谷崎潤一郎著/新潮文庫◆
生真面目なサラリーマンの河合譲治は、カフェで見初めた美少女ナオミを自分好みの女性に育て上げ妻にする。成熟するにつれて妖艶さを増すナオミの回りにはいつしか男友達が群がり、やがて譲治も魅惑的なナオミの肉体に翻弄され、身を滅ぼしていく。大正末期の性的に解放された風潮を背景に描く傑作。――アマゾンより。
簡単に言ってしまうと、若くて美しいナオミの自由奔放ぶりに翻弄される河合さんと一緒にやきもきするお話でした。ナオミ以外目立った女性は出てこないんですが、ああ本当に、男はバカだな~と思ってしまう。ナオミはもともとはちょっと陰鬱そうな少女で、そんな雰囲気に河合は「悧巧そうだ」と見染め、ゆくゆくはいい女に育ったら妻にしようともくろんでナオミを引き取るんだけども、ね、全然ナオミの本性が見定められていない。十五のナオミを引き取り、行水させたり勉強させたりするけれど、結局それは「奉公」であって「教育」ではなかったのだと思う。ナオミはきっと女としてとても狡猾だから、結局は養ってもらっているというよりも、河合のことを自分にもっとも尽くす「男」としてしか見ていなかったんだなというのがものすごい感じられる。だけど、河合や、他の男たちは、そのナオミの奔放ぶりやわがままぶりに手を焼きながらも結局は許しちゃうんだから、なんだかなあ、ある種の処女信仰的なものを垣間見ました。というか童貞信仰というか初恋信仰というのか。
そんなナオミなので色々な男を関係を持っていると知っても、河合も馬鹿なもんで、ナオミと関係を持っていた男の子とも意気投合なんかしちゃって「ああでもナオミが~」「ナオミにだまされたんじゃショウガナイ~」みたいなことを平気でお互い言い合って慰め合っている。それがどれだけ滑稽であることか。でも、これこそが谷崎が追い求めていたとかいう「永遠女性」というものなのかな。どれだけばかげたことであると自覚しつつも、姿を追っていられずにはおれない。
河合も、一度はナオミのことをきれいさっぱり諦めるんだとか言いながらも、そういうタイミングを見計らってナオミが手元にやってきて、じらされた挙句になんでも言うことを聞くという誓いをさせられてまた一緒に暮らし始める。ナオミの奔放さに拍車はかかっているけれど、そういう彼女のことを愛していると河合は言うのだから、なんだか男というのはバカでアホだ。
誰かが言っていたのは、男の恋愛というのは一本道で、振り返ると今まで付き合ってきた女たちの顔がすぐに見える。だけど、女の恋愛というのは曲がり道だから、振り返っても今まで付き合ってきた男たちの顔はもう見えない。
時代的にはなおさら、河合にとっては一本道の退路を塞ぐのもナオミ、行く手を阻むのもナオミだった。きっと彼自身がナオミという道を永遠に出られなかったんだと思う。それでいいという。本来なら、征服することを楽しみだと思うはずなのに(と、私は男性をそういう目で見ているけれど)、逆に征服されることを良しとする。倒錯的。
文章はやっぱり流麗で、一つ一つが丁寧だ。内容と相まって、相当の密度だなと思う。
しかししばらくは谷崎潤一郎読まないだろうな。胸焼けしそう。

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