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どこをみているの
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2011/12/30  このまま二人で
「好きです」

信楽さんは、小さく呟いた。
一瞬なんのことかわからないまま彼を見ると、彼もまたこちらを見ていた。

「江野さんのこと、好きです」
「…、」
「こっちの人でしょう。でもだからって好きなわけじゃない、ですけど」

彼の瞳は驚くほど澄んでいて、実家で飼っているハルを思い出した。
立派に成長したハルは、犬に言うのはおかしいかもしれないが精悍な顔つきをしている。
でもその瞳は、うちにきたころと変わらないあどけなさをも残していた。
信楽さんの瞳は、それに似ていた。
何も言えないまま突っ立っているとホームに電車が滑り込んでくる。
僕らと同じようにたっていた、ホームにいるまばらな人影が電車に寄っていく。
信楽さんは小さく頷いた。

「じゃあ、また」
「信楽さん」
「じゃあ」

終電を逃すことはできないので、乗り込むがどうしていいのかわからなかった。
足を踏み入れてすぐに振り向くと、もうそこに彼の姿はなかった。
向かいのホームに行くために階段を降りていったのだろう。ドアが閉まる。
ふらふらしながら座席に座った。頼りない冷房が頭の上から降ってくる。中途半端な温度だった。

薄々思っていたけれどやっぱり信楽さんもそうだったのかという納得と、彼が放った僕を好きという言葉に対する戸惑いが、じわじわ沸き上がってくる。
鈍行は、夜の中をゆるりゆるりと進んで行く。考える時間はたくさんある。

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