どこをみているの
2025/02/08 [PR]
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2012/06/09 あなたの
モーリーは顔をぐちゃぐちゃにして立ち上がって出ていった。ドアについていたカウベルが楽しげな音を立てる。
私は窓越しに彼女をみつめていたけど、彼女はいっさい視線を向けてくれることはなかった。短くなった髪の毛の合間を、長いきらきらしたピアスが揺れているのをいつまでも見ていた。
目にはもう確認できないけど、それでも彼女の後ろ姿がなくなって、見えなくなっても、私はピアスをじっと見て、そしてテーブルに突っ伏した。
店内には私一人。スカイブルーのテーブルと座り心地のわるい赤いプラスチックのイスがずらりと並ぶ。お洒落だと言わんばかりの室内で、私たちはどんな風に見えていただろう。
カウンターには黒いエプロンをつけた男がしれっと立っていた。あんたたちの話なんか聞いてませんけど、という顔をしてる。
私は横目で彼を上から下までじっと眺めた。優作の方がイケメンだしスタイルもいいけど、優作よりもモーリーを大切にしてくれそうだな、と思う。眉毛が少し細すぎるのが減点だ。
「すいません」
まだ机にうなだれたまま、私は彼に声をかける。少しぎょっとしたような顔をしたが、すぐに体勢をたてなおし口角をあげてはい、と返事をした。
私の前にも、モーリーがいた前にもコーヒーがおいてあるけどお互い一口も口をつけなかった。それどころではなかった。モーリーは私の言葉に釘づけで、私はモーリーのかわいさに釘付けだった。
「悪いんですけど、これ2つさげてもらって、新しくカフェオレひとつお願いします」
「ホットでよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました」
彼はコーヒーカップをお盆に載せると、カウンターに片付けながら奥に向かってカフェオレ、と言った。
私はまたぐたりとテーブルに突っ伏す。ふん、と小さく息を吐くと、テーブルが湿ったのが皮膚の感覚でわかった。そして立ち上る、わずかななまぐささ。テーブルを拭く布巾がきっと臭いのだ。雑巾みたいな匂いがする。
はっと顔をあげると、ちょうど彼がカフェオレを持ってきて立ち止まるところだった。私はすいません、と意味もなく小さく謝って姿勢を正す。カフェオレでございます、ご注文は以上でよろしいですか?などと常套句を並べ、相変わらずしれっとした顔で彼はまた定位置に戻った。
私は、じっとカフェオレを見つめる。さっきのコーヒーカップより、縁が分厚くて取っ手もなぜか太い。
持ちにくいカップだな、と思いながら私はゆっくりと口元に近付けた。牛乳の柔らかく、そしてもったりとした匂いが鼻先に届くと同時に気持ち悪くなって、ソーサーにまたカップを戻した。
カフェオレなんか、好きじゃないのに。
ふつふつと涙が盛り上がってきて、目頭から二粒こぼれた。
モーリー、私、カフェオレきらいだよ。
私はしくしく、一人で泣いた。
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