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どこをみているの
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2014/03/07  そういうことにしておいて
話が合わない、という人と一緒にいると自分が話している言葉が口元に詰まって、窒息死しそうになる。
あ、話、かみ合っていないな、とか、私の気持ち伝わっていないな、とか、そういう瞬間の迷いが私の脳みそを常に脳梗塞に導いて、つまり私はそういう人と話しているときに三秒に一回は脳の血管が詰まって死んでいるということになる。でも、それは決して大袈裟な話ではなく、そのぐらい話が合わない人と一緒にいるのは決死の覚悟、というか、背水の陣、というか、とにもかくにも清水の舞台から飛び降りる気分なのだった。
といって、私が、話の合わない人を毛嫌いしていて憎んでいるのかというとそうでもない。
もちろん、いくらでもいなせる。場合によっては私が相手にいなされているのかもしれない。だので、よっぽど、話が合わないということによって諍いが起こるということはないのだけれども、なんてたって脳細胞は三秒に一回全部死んでいるので、続いて言葉が出てこないことがしばしばある。
あ、この言葉は間違った。
あ、この言葉は跳ね返ってきた。
あ、この言葉で笑い合えなかった。
あ、この言葉で憤慨しなかった。
そういう、一時停止ボタンをいちいち押してしまい、脳細胞も全滅し、私は人間として何回も何回もやり直さなくてはならないはめになる。さて、そこで問う。何度も死に何度も生き返る私は、本当に人間としてやり直せているのだろうか?と、言いたいところだが、話の合わない御仁とはこの根本的な問いすらままならないし、破壊されてしまうので、私のこの問いは永久に解決されないままだ。
「あ、鈴裏さん」
「彦根ちゃん」
もたもたとレジで温めなぞを待っているうちに、話が合わない代表の鈴裏さんがやってきた。私の口は殊勝なことに彼女に話しかけようとしていたが、どうにか名前を呼ぶにとどまる。脳梗塞を起こしてたまるかってんだ。
「彦根ちゃん、何買ったの?」
「あ、えと、アメリカンドッグ」
「おお。私もそうしようかな」
「おいしいですよ」
「そ、だよね~」
そうだよね、とは言わず、一瞬真顔になって、そ、の後に一拍入ってだよね、とは、どういう了見なのかぜひ伺いたい。私の返しがまずかったのか、じゃあどういう返しを期待していたのか教えてもらっていいですか。
もう話しかけられないと思ったら、空いていたこともあって鈴裏さんはすぐにレジにおにぎりを二つ持って来た。
「あと、アメリカンドッグを」
ピーピーと、私のそぼろご飯を温めていたレンジが鳴る。小さな声で断りをいれ、店員が袋にいれたそぼろご飯を差し出してくる。
「すいません、私のそぼろちゃんが」
「許さないんだから」
鈴裏さんが笑いながら言ったが、そこは真顔で言ってほしかった。じゃないと、私が「ひどい!」とか「無体な!」とか言えたのに、そんな悪気のない顔でそんなこと言われても何も面白くない、と思うのは、私だけ、ですか、そんな女っぽく言われてもじゃあ私の方が許しますよってなもんです、というのは、もちろん言えないので曖昧に笑って見せた。じゃあ、とか、お先に、とか、うんとかすんとかいいながらコンビニを後にする。どうにか横断歩道が赤になりませんようにと早歩きで歩き始めると、後ろから走り寄ってきて、嫌な予感はしたが振り返るともちろん鈴裏さんだった。なんだよほんとに。
「さっきさ、江間くん怒ってたよね」
同じ課の、私の先輩であり鈴裏さんの後輩である江間さんの名前が出てきたので私は興味津々だ。江間さんは、鈴裏さんよりも話が合うし面白い先輩なので嫌いじゃないが、気分で人を左右するし自分のことを絶対に正しいと思っていて誰かと話すときは上から目線だし、職場でも平気で八つ当たりをするし、そういうところが人間として欠陥がありすぎると思うので、総合的な評価は大嫌いだ。さっきも、自分の知らないところで私と鈴裏さんが仕事を進めていたことが気に入らなかったらしく、基本的に私に対してひどい言葉をあびせて(何がたちが悪いというと、本人がそれを八つ当たりだと認識していないところ)、だんまりを決め込んでしまったのだった。
「あー、でも、あれは私が最初から江間さんに確認すればよかったんですけど」
「うーん、そっかあ」
いや、そこは同意じゃなくて、そんなことないよ江間くん最悪だった、ぐらい言えませんか。
「……江間さん、いつもああなんです。人に言うときはまくしたてるし、課長にも口ごたえばっかりするし、自分以外みんな間違ってるみたいなところあるから」
「ん、そっかあ」
言わなきゃよかった。私の脳細胞が全滅した。鈴裏さんは苦笑いをして、私の苦言には賛同できませんということをなんとなく雰囲気で醸してくる。これももしかしたら本人は気付いていないのかもしれないし、むしろ私がやっぱり悪いということなんだろうか。私はこの件に関して私が悪いとは思っていない、けれど、まあ後輩が悪いと思うのが定石だろうということでそう思うようにしているだけであって、気持ちの上では折れる必要はないと思っている。し、この話を振ってきたのは鈴裏さんなんだから、それで引くのはおかしいんじゃないかという気持ちもなくはない。
何でも、ネガティブなことでも、ポジティブなことでも、とにかく何でも、どこか一緒に賛同しあえることや、どこか一緒に否定できるものがなければ、私の脳細胞は維持されない。すくなくとも鈴裏さんと話すことによって、私の脳細胞が毎回死ぬのであれば、私はできるだけ彼女との接触は避けなければならない。私のなけなしの脳細胞が一生懸命答えをだす。生まれ変わって、劣化して、生まれ変わって、劣化して、生まれ変わった末の脳は、もはや人間としてちゃんと機能してるのか怪しいが、そんな脳みそでも一生懸命考えたこたえが、彼女を避ける、ということであれば、私はそれに従う。
話が合わないのであれば、避ける。
わからないこともつらいし、わかってもらえないこともつらい。
まったくわからないことを考えていて、「自分の知らない世界をこの人は知ってるの、素敵!」となる女はほんとに馬鹿だ。自分の人生を生きていないし、人生の価値基準が自分の外側にあるのだと思い込んでいる。と、私は思い込んでいる。
ので、やっぱり、話が合わない人と一緒にいるのは苦痛以外の何物でもない。馬鹿だとも思われたくないし。
「じゃ、私下で食べるから」
地下にある休憩室に去って行った鈴裏さんは、何事もなかったかのように笑顔を振りまいていた。やっぱり何を考えているのかよくわからないし、私の中にもカテゴライズできない人だった。
まあ、アメリカンドッグを買うところは少し評価しておこう。

***

今日思ったことでした。

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