どこをみているの
2025/02/13 [PR]
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2011/05/12 おまけ
さっきから何度も何度も、スライド式の携帯を弄んでいる。液晶画面がつくたびに時間を確認し、もとにもどし、またスライドさせて時間を見る。丸屋は息苦しそうに息をついたが、楽になることはなかった。余計に自分の緊張を煽る。
今朝、園子から歓迎会の飲み会があると言われて遅いのかと尋ねると妹はそれなりに、と言う。兄としては駅から歩きで十分ばかりの帰り道でも心配で、居酒屋の場所を聞くと自分の職場の近くでもあったから、一緒に帰るか、と提案した。髪の毛を束ねながら、園子は少し思案顔になって、じゃあ帰り近くなったらメールするね、と言った。
そしてそのメールがきたのが三十分前で、しかも思いもよらない情報が付加されていた。丸屋はコンビニで買った安いカフェラテを口から吹き出しそうになり、三度は文字を見返しもした。
「桶川さんも一緒だよ」
整理のつかないまま待ち合わせの駅へ行く。スライドさせて閉じて、それでも心臓は収まってくれなかった。
おけがわ、と、名前を口にして音声化することさえも憚られたけれども、体の震えや鼓動の早さは彼のことを覚えていたのだった。春とは名ばかりの、冷たい夜風に震えてもなお、冷静になることなどできなかった。丸屋の記憶の中でひりつくような温度を今も失わず、思い出すと火傷をしてしまいそうな、あの夏。おけがわ、と、また口を動かしてみる。
その夏、丸屋の髪の毛は夕日の色よりもふてぶてしいオレンジ色をしていて、安っぽい銀色の松葉杖を付いていた。傍には丸屋のカバンを持ってくれる桶川がいて、彼はいつも丸屋の足の怪我を気遣っていた。自分が加害者だからか、そうでなくてももしかしたら桶川は優しく付き添ってくれていたかもしれない、と丸屋は思う。今はほんの小さな皮膚の盛り上がりとなった傷跡のことを思い出すことは滅多にない。というよりか、思い出してもすぐに空しさと苦しさと、そして愛しさがせりあがってくるために、ぬるま湯につかるように思い出につかることはできなかった。
心残りをあげるならいくらでも出てくる。けれど、もう十年程前のそれらを誰かにどうにかして責めよってもなんの役にもたたない。丸屋の髪の毛はあの頃よりも短くそして黒く、松葉杖の代わりには無印良品で買った仕事用のナイロンハッグを脇に抱えている。足の傷など、疼きもしなかった。
また携帯を弄る。もう一度メールの文面を見返した。桶川と園子が同じ職場だったことも驚きだったが、園子がここに連れてこようと取り計らったことも意外だった。園子と桶川は確か一度も会ったことはなかったはずだ、と丸屋は自らの記憶をひもとく。会っていたとして一回か、二回。いや、一回。女は化粧もするし園子に至っては中学の頃に比べると痩せたし垢抜けた。わかるもんなのかな、と逡巡する。園子はどこまで何を知っているのだろう、と記憶を愛しく回顧していた丸屋に不安もよぎる。
・・・・
そのうちかきたいな
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