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どこをみているの
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2011/01/19  この胸を打つ
伝えたいことはあまりなくて
しずかに暮れゆく冬の景色の
美しい写真をじっと眺めた。

今までありがとうと
言わせてもくれないのかと
憎んだ日もありました。
それが貴女のやさしさでも
僕にわからないなら意味がないと

古ぼけたページを一枚めくり
インクや紙に蓄積された
様々な歴史の香りが
いまだ貴女を感じさせるのは
貴女のやさしさに気付き始めた
その証拠なのでしょうか。

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2011/01/14  どこを見ているの
君の碧眼はどこを見ているの

名もなき母に
子もなき父に
幸せなき君に

神が与えたもうたそのビー玉
太陽のぞくとどうなるの

ガラスの瞳は割れないの
アルミの心は曲がらないの
木目の時間は止まないの

君は何を見ているの
僕にも彼にも言わないの

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2011/01/12  てのひら
なぜ伝わらない
なぜわからない

彼は今にも泣きだしそうなほど顔を真っ赤にして
こぶしを握って突っ立ったままでいる。小刻みに震えた手。
男のくせにすこし小さいその手がぶるぶる震えていて、
確実に俺はまたひとつ、こいつを傷つけたってことを知る。

「いい加減にしろよ、お前。帰ってくんなっていったよ、俺は」
「そんなのお前が勝手に言ったことで―」

床に落ちていたティッシュの箱を蹴ると、パコンといい音がしてどこかにとんでった。
彼が黙る。唇を噛み締めてなかんとしているのが全身から伝わる。
優しく抱き締めたらいい。
頬に優しく触れられたらいい。
でもそれができない。
彼にはそんなものではなくて
もっとそのままの感情を、激情を、剥き出しにして
引きずり回して目一杯傷つけてそれから愛したくなる。

一緒になれないなら
どうせわからないなら
境界線をはっきりさせた上で
好きや嫌いやそれ以上の生々しい感情をぶつけたい。

「かえる場所がないとか、くだんねーことほざくなよ」
「なんなの?……俺はここにいちゃいけないわけ?」
「自分で考えろよ」
「…こんなに好きなのに?こんなに、こんなに、」

俺は彼の指先をじっと見つめる。

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2011/01/08  梨
目の前に座る彼は少し照れ臭そうに紙袋から梨を取り出して
紫色の風呂敷に三つほどつつんでくれた。そして私に差し出してくる。
紙袋に入った残りは鮎子さんに差し出した。二人していただく。
「まあ、立派な梨ですのね」
彼は大きく首を振ってやはり相変わらず羞かしげにしている。
「ご実家で作っておられるの?」
そう尋ねるとええ、と控えめに応える。
「果物園をやっているので、果物には困ったことがないのですよ。
だだっ広くて何もないところですから、枝振りもよくて
味だけは保証しますよ。お口にあえばよいのですけど」
「先生もおいしいと仰っていたし、香りも良いし、きっと美味しいわ」
はあ、とまた照れた顔をする。
年の割りに女性になれていないのか、生来純朴なたちなのかはわからぬし
そもそも人と話すことが苦手なのかもしれなかった。
だとしたらこんな対面式の待合室までのこのこついてくることもなかろう。
イマイチつかみかねて思わずじっと見つめてしまう。
視線には敏感なのだろう彼ははっと私を見て威圧されたように肩をすぼめる。
「………葵が」
「え?」
「梨をほしい、それも目一杯というので何事かと尋ねたら、おむかいの方にと言うのです。
こんなことを言うと怒られそうですが彼もあれで気性の荒いところがありまして
そんな彼が言うのだからどんな方々かとおもったら……………良い方で安心しました」
本当に胸を撫で下ろしながら言うので吹いてしまった。


家に帰りサチに梨を剥かせた。
彼女の手よりも大分はみだしていたそれはみずみずしく、
一口かじると果汁が溢れて香りがどこまでも広がる。
実直な味であった。

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2011/01/06  採光
鳴瀬さん

自分はいつ死ぬのだらうと思つてゐました。
(藪から棒にすみません驚かれたでせう。)
小さな頃から不思議だつたのですけれど…近頃はおかしなもので
不思議ぢゃなくなつてきたのです。わかりますか?
(なんて失礼な!しかし鳴瀬さんならきつとご理解くださる)

窓の外の金木犀が良ひかほりなのださうですが生憎
ぼくの鼻はぶつこわれてしまつてゐてこまつたものです。
入院初めの頃はここの消毒くささも鼻につきましたけれど…
今はここに差し込む明かりが暖かくていとほしくて堪りません。

天馬

***

天馬くん

君の字はとても美しく、字を綴ることに向ひてゐるやうな気がします。
さて、君の言ふことにつひて軽々しく解るといつてしまふことは、
まるで失礼に思ひながらも、解ります。
君も多くは語らなかつたけれども、むしろ私たちに与へられてゐるのは
残酷な死ではなく穏やかな生だからではなからうか。
然し安心するのはよくなひ。
安穏とは残酷と同じ仲間に属してゐると私は思ふ。
それはきつと君も少なからず体験してゐるはずです。

私たちに生きるすべはなく、総ては神や仏の采配に寄る気がしてくるが
案外さうではなく、
やはり命は命たらんとして私や君の手につかまれてゐるものだと
私はさう思う。
だから安穏であり残酷であり、いのちなのです。
互いに奇病におかされる身の上だけれども
平穏を生き抜くしかなささうですね。

金木犀は私のところには幽かですがかほりがきます。
綺麗な黄金色の花粒を見られなひのは悲しひことですね。
先日、付き添ひの者にカアテンを開けるやう頼んだのですが
全く聞き入れることもしてくれませんでした。
友人としては有能な彼ですが、行く先短ひ病人の付き添ひとしては使えぬやうです。

少しずつ冷へてきたので風邪には気をつけて。

鳴瀬

***

鳴瀬さん

鳴瀬さんの書かれたものを付き添ひの者が持つてきてくれました。
どれも立派な賞をお取りで、だからといふわけではなひですが
大変面白かった。
だからでせう、ぼくの詰まらぬ話も素晴らしひご返答が頂けた。
家宝にします。
死ぬことはもはやそれほどまでに怖くはなくなりました。
……言ひ切つてしまうにはまださすがに早いかもしれませんが
恐怖は殆どありません。
どれだけの生を生きられるのか。いのちはぼく次第なのでせうか。

さうだ、まだ僕のことも
もちろん鳴瀬さんのこともお伺ひしていなひ。
時間も、腕がなくなるまではおそらく、許すでせうから…
差し出がましく僕からお話しやうかしら。
いや、けれど、やつぱり鳴瀬さんからお願ひしませう。

今度付き添りの者が梨を持つて来るといふので鳴瀬さんにもお裾分けいたします。

天馬

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