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どこをみているの
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2011/05/20  TOUCH
どうしても彼に触れたかった。
けれど触れたら何もかもが終わることはしっていた。
触れなくともこの思いはいつか終わることもしっていた。
触れなければ傷つくこともないってことも。

でも
しっていてもわからないことなんかざらにある。

そして
俺は彼の感触をしらない、
けれど触れたらもっとすきになることはわかっていた。
気持ちを伝えることばをしらない、
けれど伝えなければもっとつらくなることはわかっていた。

アダムとイヴはきっとしっていたしわかっていたんだ。
知恵の実をとってはならないこと、けれど欲には勝てないこと。

俺の震える指先が、彼の肌を這う。

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2011/05/19  ゆび
真っ白な病室を満たす空気も真っ白で、生きたものを拒む感じさえする。春だというのに温かさなど微塵もない。ただベージュ色のカーテンが纏められているだけである。
いつぞやに聞いたのとは違うだろうが、相も変わらず子供たちの笑い声が中庭から聞こえるのだった。空虚なこの部屋にいくら笑い声が響いても決して満たされることはない。私の隣で鴎四朗くんが鼻をすすった。
「私はまだ信じられないんです。ここに……いや、葵と生きた……葵が生きていたなどということ自体が」
声が震えている。
彼は私より小柄だが、こんなに小さく見えたのは初めてのことだった。鳴瀬が亡くなって二ヶ月後に葵くんもなくなった。彼の死に際も鳴瀬と同じように今までの苦悶を忘れたかのように穏やかだったという。
その朝、鮎子さんとともにこの病室を訪れると鳴瀬が横たわっていた空っぽの寝台の向かいも空っぽで、ただ一人、鴎四朗くんがまぶしげに窓の外を見つめていたのだった。
そして二日がたち、葵くんの病院葬が終わった今日が過ぎれば私たちはもうここに訪れることはないだろう。
「鳴瀬さんのときも……あんなによくしていただいたのにもう……本当は夢だったんじゃなかろうか、と、葵のことも、本当は」
彼の言葉はそれ以上繋がらず、ただの嗚咽になって消えていった。私は彼の震える肩に手を置いてやることしかできない。せめて私が震えないでいてやらねばならない。
「終わったそうですよ」
廊下を静かに歩いてきた鮎子さんが私がいる反対側から鴎四朗くんを覗き込む。彼は頷いた。私と鮎子さんも目を合わせて頷く。納骨をするのだ。鴎四朗くんを半ば抱えるようにしてその場を後にした。
廊下にある長椅子に目が行き、何度も座ったことを思い出す。大抵は鳴瀬が血を吹いたときだった。目玉が溶けたときもそうだった。鮎子さんと二人きりに、と下手に気を回して笑われたこともあった。寒い日もあれば暑い日もあった。鳴瀬が亡くなった日、鴎四朗くんもここに腰掛けていた。鮎子さんと鴎四朗くんとそして私と、三人寄り添い悲しみそして鳴瀬と葵くんのことを思った。
「……鴎四朗くん」
自然と口を開いていた。
「君が、葵くんと過ごした日々は本物だよ。葵くんは生きていたよ。最後まで。君が、鳴瀬が最後まで生きていたといったように――」
見慣れた廊下も窓からの景色も、消毒液の匂いも、今はまた新しいもののように感じる。
「君が葵くんを愛した日々は確かにあった。夢ではないよ」
「藤崎さん――」
彼らの関係については誰も何も問うことはなかったが、それが暗黙の了解でもあったし、私たちにとってはほんの些細なことだった。重要なのか、いかに彼らが互いを思い合っていたかだけだ。いかに互いを生きていたかだけだ。
私たちはそのまま納骨場までゆっくりと進んだ。病院のひとつひとつを脳裏に焼き付けようとしていたのかもしれない。

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2011/05/16  守護天使
あいがわからぬ
そうなくきみに
あいはやすやす
ふりはせぬ

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2011/05/12  おまけ
さっきから何度も何度も、スライド式の携帯を弄んでいる。液晶画面がつくたびに時間を確認し、もとにもどし、またスライドさせて時間を見る。丸屋は息苦しそうに息をついたが、楽になることはなかった。余計に自分の緊張を煽る。
今朝、園子から歓迎会の飲み会があると言われて遅いのかと尋ねると妹はそれなりに、と言う。兄としては駅から歩きで十分ばかりの帰り道でも心配で、居酒屋の場所を聞くと自分の職場の近くでもあったから、一緒に帰るか、と提案した。髪の毛を束ねながら、園子は少し思案顔になって、じゃあ帰り近くなったらメールするね、と言った。
そしてそのメールがきたのが三十分前で、しかも思いもよらない情報が付加されていた。丸屋はコンビニで買った安いカフェラテを口から吹き出しそうになり、三度は文字を見返しもした。
「桶川さんも一緒だよ」
整理のつかないまま待ち合わせの駅へ行く。スライドさせて閉じて、それでも心臓は収まってくれなかった。
おけがわ、と、名前を口にして音声化することさえも憚られたけれども、体の震えや鼓動の早さは彼のことを覚えていたのだった。春とは名ばかりの、冷たい夜風に震えてもなお、冷静になることなどできなかった。丸屋の記憶の中でひりつくような温度を今も失わず、思い出すと火傷をしてしまいそうな、あの夏。おけがわ、と、また口を動かしてみる。
その夏、丸屋の髪の毛は夕日の色よりもふてぶてしいオレンジ色をしていて、安っぽい銀色の松葉杖を付いていた。傍には丸屋のカバンを持ってくれる桶川がいて、彼はいつも丸屋の足の怪我を気遣っていた。自分が加害者だからか、そうでなくてももしかしたら桶川は優しく付き添ってくれていたかもしれない、と丸屋は思う。今はほんの小さな皮膚の盛り上がりとなった傷跡のことを思い出すことは滅多にない。というよりか、思い出してもすぐに空しさと苦しさと、そして愛しさがせりあがってくるために、ぬるま湯につかるように思い出につかることはできなかった。
心残りをあげるならいくらでも出てくる。けれど、もう十年程前のそれらを誰かにどうにかして責めよってもなんの役にもたたない。丸屋の髪の毛はあの頃よりも短くそして黒く、松葉杖の代わりには無印良品で買った仕事用のナイロンハッグを脇に抱えている。足の傷など、疼きもしなかった。
また携帯を弄る。もう一度メールの文面を見返した。桶川と園子が同じ職場だったことも驚きだったが、園子がここに連れてこようと取り計らったことも意外だった。園子と桶川は確か一度も会ったことはなかったはずだ、と丸屋は自らの記憶をひもとく。会っていたとして一回か、二回。いや、一回。女は化粧もするし園子に至っては中学の頃に比べると痩せたし垢抜けた。わかるもんなのかな、と逡巡する。園子はどこまで何を知っているのだろう、と記憶を愛しく回顧していた丸屋に不安もよぎる。

・・・・

そのうちかきたいな

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2011/05/09  AWAY FROM ME
誰かを傷つけたい人がいるように
誰かを守りたい人がいる
誰かを愛したい人がいるように
誰かを憎みたい人がいる

かくも美しき世界
醜くて息もできない

愛しくておぞましくて
汚らしくて麗しい

きみにこの気持ちは伝わらないと思う
きみはきみの思うように世界を愛してくれよ、なあ

たまには手紙をくださいよ
きみの見る空の色を教えて

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