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どこをみているの
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2012/04/10  万年筆
ぱちん、という可愛げがある音と同時に病室の前にいた私は、しかし、決して可愛げな出来事があったわけではないのはよくわかっていた。
黄ばんでしまってもはや黄色に染まったカーテンが閉まっている病室は、いつも春の夕暮れのような色をしている。
昨日までの寒波が嘘のように、今日の昼間は汗ばむほどに暑かった。
春になると日差しの色も温度もかわる、といったのは葵だったろうか。
湿度を帯びるゆえに体感する温度が高くなるのはよくわかっていた。
病室の前に立ち尽くした私は、静かに小鼻の汗を拭いた。
「ごめんなさい」
小さな声は、不自然に手をあげたままの鮎子さんの口から漏れたものであった。だが、その声音は決して自分に非があるとは思っていない。
私は相も変わらず間抜けに立ち尽くしたまま寝台に身を起こしている鳴瀬さんを見つめていた。
首から画板をかけている先生は、なけなしの指で万年筆を持ったまま固まっている。
鮎子さんも鳴瀬さんも、わずかに震えているのがわかった。
「……先生、あんまりだわ」
「鮎子」
「藤崎さんも私もそんなことを望んでなどいませんし、それは、あんまりだわ」
最後は言葉にならないようで、泡のようにぶくぶくと固まってどこかに消えていった。
幸いなのか、葵は寝台の上で静かに寝ている。一度寝入ると中々目覚めないのは、普段共に生活していると難点であったが、今はそのまま眠っていてほしい。
葵は二人が諍いを起こしている姿など見たくないにちがいない。

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2012/04/01  エイプリルフール
嘘をつかねばならない日なんだって
君がシャボン玉ふくらましながら笑った
僕はその玉に映る僕を見ていた
虹色に歪んだ自分の顔は醜かった

嘘をつかねばならない日なんだって
君が紅い靴脱ぎ捨てて泣いた
僕はその底でひしゃげた爪を見ていた
肉からはがれたばかりの爪は美しかった

嘘をつかねばならない日なんだって
君は棺おけに横たわって静かに寝ていた
僕はその頬に触れる僕の指を見ていた
空色の君の瞳には何も映っていなかった

バイバイ、
さよなら、
愛してる、
ごめんね、
またあした、

そういう嘘や本当を、
つかねばならない日も、いらないと願った日も
どうか、どうか、
嘘にはならないまま、
嘘であるがまま、

僕のものとなって
君のものであって

全部が嘘であるなら全部が真実でもいいはずだ

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2012/03/25  さよならばいばい
首を曲げた街灯がぱしぱし鳴った
私の涙もぱしぱし落ちた
暗闇に浮かぶ木星が美しく

明日から大人になる唇は
今日で最後のわがままを
自由であれ、いのち
さくらちる悲しさと艶やかさ

夜空に輝く星がさらさら降った
私の涙もさらさら降った
けぶる光の帯が美しく

明日から大人になる指先は
今日で最後のやさしさを
たくましくあれ、心
牡丹落ちるそのときまで

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2012/03/19  ただ悲しくなってしまうんだ
声震えてますね。

彼は僕とは正反対に抑揚のない声を出す。恥ずかしくて何を言っていいのかもわからなかったが、むしろ言葉はいらないのかもしれない。

なんでそんな落ち着いてるんです。
緊張すると、ガチガチになってさ棒読みになるんですよ。俺は、最初からずっと今まで、そうだったよ。

彼の手が僕の頬に伸びてくる。かさついた手は、冷たかった。けれど、たとえば、冷凍してあったパスタやフルーツのように、もういのちが戻らないものの冷たさではない。
生きていて、血が流れている冷たさだ。

彼のいのちになりたい。
ふと、そんなとりとめのないことを思った。

なんで泣くんです。
泣いてません。
ハルくんは、女の子みたいによく泣くね。
嫌味だ。
誉め言葉だよ。

彼が困ったように笑った。

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2012/03/15  3月15日
三階の窓からみた何かの庭木
夕日のせいか黄味を帯びていてまるで枯れ木寸前に見えた
風で揺れるたび、悪魔の呼び声が聞こえる
ひどいひどいひどい

世界が黄色く枯れていく
やがて灰色になったとしても
彼女の髪はキラキラ輝くの?
眉間に寄せたしわと小さく動く口の
上品さの裏には残酷さが隠れている
ひどいひどいひどい

冷たい言葉しか知らない
ざまあみろと言った口が憎い
あの子の笑顔は偽物
疑心暗鬼にしかなれない枷の足
泣きそうな顔しないで
私が代わりに消えたいぐらいに

あなたの指で救ってくださる?

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