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どこをみているの
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2014/09/25  弾かなければ地に落ちる
深呼吸をする。ステージの上、僕以外、もう誰も呼吸するものはいない。
何も聞こえない。心臓の音、耳の奥、血の流れる音、そんなものとも、もう無縁だ。
僕はただ、手にした無名のバイオリンとだけ、生きている。ただただ、この木を彫りだした塊と音を出すためにこの場所に立っている。無音。真空。なんでもよかった。僕とバイオリンだけが、この、静寂の空気の中で形を持っている。何百人といるはずの聴衆の姿も、もはや存在しなかった。

弦と弓が触れ合う瞬間に、彩りがはじけ飛んでいく。一瞬の間。一瞬の差。何もかもがほぐれて、壊れて、美しく絡んで、何者にもなっていく。
もう、なんでもよかった。
ただ、彼だけに、音楽を愛し、バイオリンを愛し、自分だけを憎み、自分だけを責めた、彼へと、僕の、ただ僕という一人の男の、ばかげた、幼い、純粋な音を、彼だけに届けたい。
届かないかもしれない。ここにはいないかもしれない。
バイオリンは悲しい音がする。だからお前みたいな楽しい奴が奏でるべきなんだ。
そう言ったあなたの、ただ誇り高く気高く生きるあなたの、悲しく生きるあなたの奏でるバイオリンはどんな音がするのか。

それは、誰よりも、美しい。

「太見さん」
工房から本当にふらりと出てきた彼の腕を掴む。びっくりしたように目が見開かれ、灰色がかった瞳が僕をじっと見る。彼はいつもの、白いオックスフォードシャツにキャメル色のエプロン姿でいた。木くずが、彼の前髪からぱらぱら落ちる。手の力を緩めると彼は思い出したようにはっと動いて、自分の腕をひっこめ僕に背中を向けた。でも、歩き出そうとはしない。
「太見さん……あの、僕、」
「……ドイツ語話せってんだろ」
つっけんどんで、くぐもった声が遠く響く。
「でも、ほら、想いを伝えるには母国語が一番っていうか」
「知るか」
「……僕、バイオリンがやっぱり好きです」
「知ってる」
「太見さんのバイオリンが好きです」
「…知ってる」
「太見さんのことが、好きです」
さすがに、物語のようにはうまくいかない。彼は背中を見せたままたっている。身じろぎひとつしない。小鳥のように囀るだけで愛を伝えることができたらいい。バイオリンで会話ができたらいい。口下手でも、音楽ははっとするほど饒舌な人がいる。事実、ステージ上では音だけが僕たちのコミュニケーションツールとして生きている。でも、ここは、ステージの上ではない。彼の店の前の石畳の上だし、僕の目の前にいるのは音楽を聴きに来た聴衆ではない。たった一人の、美しい人だ。
日が落ち、外灯がぽつりぽつりと灯る。昼間、抜けるように青かった空は一転して群青に塗りつぶされ、やわらかいオレンジ色の外灯を映えさせる。僕はぎゅっと、こぶしを握った。
「……太見さんは勘違いだのなんだの、言って、聞いてくれないけど、僕、本当にあなたが好きだ。好きです。好きなんですよ。……あの、僕、あなたを思うだけで、太見さんのためだったら僕、どんだけでもいい音が出せる。バイオリンもそうだ。あなたを選んでる。あなたが選んだバイオリンだから、あなたが作ったバイオリンだから、良い音が出るんだ。さっきの演奏、ねえ、聞いてくれました?生きてきた中で、一番いい音が出せた。一番いい演奏だった。太見さん。僕、あなたが、好きです」
「……俺は大嫌いだ」
彼もまた、こぶしを握っていた。
「俺はもうバイオリンは弾けないし、聞けないし、何もできない。……やめろよ、そんな、純粋に、好きとか良いおととか、言うなよ。お前、十分すごいよ。お前の音は、誰もを引き付ける。きれいだ。そんなお前が、そんな、ことを、俺の楽器を弾くとか、俺の音が好きとか、そういうこと、言うな。やめろよ。もう、いいよ、俺は、お前と、いると、どんどん自分が、どんどん醜くなってくんだよ。俺は、もう、誰のためとか、綺麗な音とか、そんなことは」
声が尻すぼみになる。後ろから抱きしめた。彼の体のこわばりが伝わる。
「僕、今日は、自分のためだけに弾きました。太見さん。僕ね、誰かのために演奏するってことは、すっごく尊いって思ってたんだ。けど、今日は、僕だけのために、太見さんを思う、僕だけのために、弾いたよ。ねえ……自分のために弾くことも、同じぐらい尊いよ」
彼の手が、僕の手に沿う。

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何が書きたかったのかなー!
BL(?)って、BLっていうだけで大きな要素なので、他の自分の書きたいこととか書く余裕がなくて困る。
いい加減、サイト更新したいなあ。

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2014/09/25  ジェリービーンズの雨
「まる、俺は、死ねると思ってた。和比古の手が冷たくなるにつれて、俺もいつかこんなふうに温度をなくして死んでいくんだって」
台風の接近のせいで、今夜は大雨になると言っていた。窓には雨粒が打ち付ける音がする。大きく、固く、でも、石ほどは固くないもの。私はなんとなく、ジェリービーンズが窓にぶつかっていたなら少し楽しいのにと思う。こんな憂鬱が少しでもカラフルに彩られたら、こんなにも、この雨の音が絶望の足音には聞こえないはずだ。
かなちゃんの家の外でもきっと雨は激しく降り続いているはずなのに、彼の不思議に落ち着いた声だけがする。
「でも、俺は死ななかった。親に傷を負わせて、親戚に保護されて、谷間を吹き抜けるごうごうという風が怖かったんだあの家は。雨が降ると、死にたくなるほど頭が痛くなるのに、和比古の手の冷たさを思い出すのに、俺の指先も足先も気づけばあったかかった。親戚の声も、まるの手も、あったかかった。死ねなかった」
ふん、と、彼が鼻だか喉だかを鳴らす。
「温度はなくならなかった。なくならないかわりに、和比古の冷たさもなくならなかった。まる、俺は、」
何度も、私の名を呼ぶ彼は雨の檻の中で何を思っているだろう。私はその檻を開けてあげなければいけないのか、連れ出してあげなければいけないのか、檻へ一緒にはいるべきなのだろうか。彼が小さく息を吸う。
「生きてて、いいのかな」
息が詰まる。彼が今、生きているということが、いとおしい。
「和比古の冷たさを知ってるくせに、俺は、まるに甘えて、それでも生きてて、」
「いいよ」
鼻の奥がつうんとする。まるで出来合いのようなその痛みに、涙が誘発される。でも、私の声は震えなかった。
「いきてて。いいよ。いきて。いいよ」
かなちゃんはしばらくの沈黙の後、また、ふん、と、鼻だか喉だかを鳴らす。

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2014/09/24  「ミニチュアガーデン・イン・ブルー」「溺れたあとに光る色」感想
今日も二冊、感想です。

「ミニチュアガーデン・イン・ブルー」キリチヒロ著/A5/186頁/600円
まず、表紙の絵がとっても綺麗です。
前々から何度か書いてるかもしれないんだけど、BL漫画は読めてもBL小説は読めない類の人間なので「BL」ってジャンルはどっちかというと敬遠しているのですが(自分で書いておいて何を言ってるのか)、今回は表紙の絵がとっても綺麗なこともあって、期待していました。
内容は、海辺の小さな田舎町の、高校生三人のお話。犬も出てきます。犬がまた、色んな象徴になっているのかも。と、今、思う。
高校生三人のうち、二人がそういう関係になっちゃうんだけど、それはとても「象徴的」な行為であって、もちろん男同士なんだけど、そこが主眼じゃないような気がしました。
ただただ、根底に流れているのは自己を認めてほしいという自己承認欲求、と、誰かを愛したいという渇望、なのかな、と。誰かをどれだけ愛しても自分自身にはなってくれないし、自分も誰かになることはできない。少年たちの、歪むほどに純粋な愛というか、純粋ゆえに歪む愛というか、難しいところだし、実際そこまでどろどろ暗い話ではないんですけど、本当に、根底には寂しさが流れている感じでした。
BLっていうジャンル、なんだけど、別に全然BLじゃなくてもいいと思いました。個人的には。「BL」っていうのも、このお話を形作るただの要素であってジャンルじゃないかな、と。
ちなみにこのお話、すばる新人賞を一次選考通過したそうです。確かに、一次であっても通過は絶対にできるレベルの筆致です。読みやすいです、そこは全くもって。
ただ、「物語」という風に見てしまうと、色んな要素が多すぎて、だからこそこのお話足らしめているんだけど、ちょっと置いてけぼり感があるかもしれません。でも、登場人物たちの目線になるとそういうの、あんまり気にならないので、旨い具合に「田舎」という舞台が生きているのかなあと思います。
読み終わった後に、なんかこう、しっくりこなくって、仕事中もちょっと考えていたんだけど「あ、これ、めちゃくちゃ寂しくて、皆がみんな、一方通行なんだ」って思った瞬間にめちゃくちゃ悲しくなりました。誰も救われないじゃねえか、という。そこがこのお話の根本かもしれませんが。

「溺れるあとに光る色」キリチヒロ著/A5/174頁/700円(R18)
こちらは上の「ミニチュア~」の続編。高校生三人のうち、そういう関係になった二人が東京の大学に進学した後のお話。「ミニチュアガーデン=箱庭」から出た二人の成長のお話、で、成長を象徴するかのように一人の女性が二人の間に入ってきます。で、片方の彼女になる。
でも、「誰かを愛する」っていうことがつらくて悲しいことだっていうこと、孤独になるっていうことと同じだってことを強調してくる。そなお話でした。結局二人は成長できたのだろうか、と思うと、ちょっと謎でした。どうなんだろう。男の子二人の関係や、女性との関係をもっともっと読みたかったなあ、と思いました。金原ひとみを彷彿とさせる筆運びです。とくに女性の独白なんかは、誰を好きになることで、どんどん自分が曖昧になっていくというか、壊れていくというか、もういっそ壊れたい、という、心情がけっこうクる。
「ミニチュア~」よりも、より、登場人物たちの心情にクローズアップした感じですね。なので、ちょっと置いてけぼり感がここでも会った気がします。もっともっと、気付きの瞬間が見たい。
R18っていうことで、それなりな性描写もありますがどっちかというとライトなので、シーンに必要な分だけを入れている感じでバランスは良いです。嫌な感じはないです。
あと、各話のタイトルがカクテルの名前で、とってもおしゃれです。このセンス私には全くない。

二冊を総じて、キーになってくる男の子の心情があんまり描かれないんですよね。それが気になっちゃって。
どうやら、この二冊の間の時間軸のお話も書かれているということだったので、今から楽しみにしているところです。
秋の夜長にぴったりな、ちょっと寂しいお話です。

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2014/09/23  「猫殿、拙宅にて」・「バンドバンドバンド」感想
今日は二冊読んだので、その感想。

「猫殿、拙宅にて」みお著/B6判/300円
(書名とか著者名ってどういうふうにしたらいいのかよくわからないぜ…)
「ぶれーめん」というサークルさんで購入した本です。webカタログのサンプル見たときから「書き出しが古臭くていいな!」と思ってほしいなあと思っていた本。
表紙がまずしぶい。内容もきっとそれに釣り合ったような渋さなんだろうと思っていましたが、買ってよかったなあと思います。とっても好き。
お話は、老いた小説家の「先生」と、これまた老いた人語を話す「猫殿」の二人暮らしのお話です。「疑似家族」がテーマというか、主軸(同じ意味だなこれ)らしいのだけど、別にそんなの関係なしに(笑)とってもいい。猫殿が語り手だけど、それがまた味のある感じ。猫って、ツンデレのイメージがあるんだけど、なんかちょうど良いんですね。書き手側が猫を飼っているのか、とっても猫が好きなのか、丁寧な筆致にとても好感を持ちました。梨木香歩の「家守綺譚」とか好きな人は好きかも。文章体が。
勝手に、著者さんのツイッター見ていたんですが、森鴎外や中島敦なんかの古き良き時代(?)の作家の名前が出ていたので、そういう奥ゆかしさのある本が好きな人にもお勧めですね。
目立った表現手法や、こだわりの言葉、なんかが出てくるわけじゃあなく、先生と猫殿の穏やかな日常風景がただただ穏やかに続く。秋の夕べにぴったりなお話です。猫殿がほんとにかわいい。そもそも「猫殿」って呼び名がいいですよね。落ち着いたお話を、私も書きたいなあと思いました。

「バンドバンドバンド」霜月みつか著/A5判/オンデマンド/76頁/300円
霜月さんのご本は「雨の日、テトラポッドで。」を持っていて、ツイッターでも少しだけお話したりしていたのもあり、もっとほしいな~と思って今回はこれを購入。三話入った「バンド」にまつわる短編集。
全体的に、とっても瑞々しくて読みやすい。女性の書いた文章はとても好きだな、と改めて思わせてくれます。
夢の武道館ライブを目前に、ずっと付き合っていた彼女と関係がうまくいかなくなる「愛の翳り」、うだつの上がらないバンドマン・宇田川と、彼の時間をお金で買うという中年女性のカエコとの不思議な関係「魔女と白昼夢」、中学生時代から大好きだったバンドのボーカルが死んでしまう「神は死なない」。どれも、音楽やそれに携わる人、愛している人のお話で、純粋に何かを「好き」だと思う気持ちが眩しくて、うずうずする。
私は、「神は死なない」がとっても好きでした。初めてCDを買ったり、ライブに行ったり、握手をしたり、は、自分にも身に覚えがあって、だからこそ鳥肌が立った。自分はただの平凡な人間なんだけど、その音楽を聞くだけで生きていけるし、無敵になれる。
悲しいお話なのかもしれないけど、元気になれました。よかったなあ。もっと早くに買えばよかったです。
お話自体がひねられてるかというとそういうこともなく、すとんと入ってくる。ありきたりなのかもいしれない。だけど、とっても愛がある。愛しさがある。霜月さん自体、ライブに良くいかれているみたいで、実体験とかその目に映る物事が形になってるんだなあ、と、よくわかるお話でした。だからって、浮かされるだけでない文章が良い。
「雨の日~」もしっとりしたお話だけど、私は断然「バンド」の方が好きです。文章自体もとっても上手くなっている(またもエラそうに)。
どのお話も等身大な、平凡な人の(もしくは平凡であった人の)、それぞれの人生が垣間見える感じがして本当によかったです。うん。

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素敵なお話を読むたびに、私が書くことはもうないなあと思う。
プロでもアマでも、これだけかける人がいて、人を楽しませることができるんですよ。すごいことだと思う。
そして、ただ、ただ、自分の好きなものを極めていくことで誰かをこうして、たとえば私を、喜ばせてくれるのだから、それもまた、すごいことだ。

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2014/09/22  「崩れる本棚」感想
今日も今日とて感想を書いておきます。ただ、突発的にツイッターに書いてしまったので、なんか改めて書くほどなのか…と思いつつ、自分が思い返すときに便利かもしれないので。

「崩れる本棚vol.1」A5判/500円
たまたま、文フリ大阪でお隣だった「メルキド出版」さんにて委託販売されていた本。
自分の傍にあったので、なんとなく手を伸ばして、メルキドさんの書かれたものだと思ったら「そうじゃないですよ」と言われつつ、なんとなく引っ込みがつかなくて(笑)、購入させていただきました。
短編集で、三話収録されています。さらっとした読み味で、文章も読みにくいとかわかりにくいとかいうことはまずありません。
話は、男女のお話が二つと、青年と幼女のお話が一つ。どれも、何が書きたいのかが明確でわかりやすく、好感が持てました。
特に、一つ目の「元カレ」が個人的にとても好みでした。作者の方は、何度か文芸賞の選考も通過されているそうで、確かに筆致力があります。
ただただ、彼女と別れて「元カレ」に成り下がった男の、彼女への独白なんですけど、良い具合に説明臭くなく、でも、ちゃんと背景もわかるし、元カレから見た彼女がどんな風なのかがよくわかる。何よりも、独白形式にしたことで、なんで彼女が元カレと別れたかっていうのが、私はすっごく面白かったです。
理由とかは、明記されるわけでないんだけど、元カレの性格が本当にムカつくし、鬱陶しい。でも、元カレはそれがどうしてダメだったのかがわからない。
その食い違いというか、勘違いが、リアル。こういう男、五万といるんだろうな、という感じでした。よかった。
他の二つもちゃんとまとまっていて、三つ目の「バッカ」なんかも、愛らしくてバカップルって感じのお話なんですが(タイトルの由来は違うと思うけど)、「元カレ」に比べると読ませる筆力が足りないのかな、と思いました(偉そうにな)。
二つ目の「チェルビアット」は、色々失った男性が、小さな女の子と暮らし始めるお話なんだけど、ちょっと先が読めてしまった。あと、もう少し煮詰めてほしかったかな。
作者のみなさんは、ツイッターの文芸部なるものに所属しているらしく、三話読み終わった感想はみなさんレベル高いんだなあ、としみじみ。
装丁がとってもシンプルで、中身の気高さとよく合っている気はするんですが、ちょっと手に取ってもらいづらいかもしれませんね。
まあ、私が言えることじゃないけど。

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